仕事から疲れて帰宅した男性が自分を満たすための料理を作り、無我夢中で食べる様子を描いたInstagramアカウント「それでも、美味いもん。(以下、それうま)」。2025年12月よりクラシコム ブランドインテグレーションが専属エージェンシーとしてタッグを組み、企業のブランディング支援をご一緒しています。
今回は、「それうま」を運営する株式会社CiiKの取締役・江原輝さん(写真右)に、「それうま」の立ち上げ背景、クラシコムとのパートナーシップで得られた手応えをお聞きします。
聞き手は、株式会社クラシコム 執行役員 事業開発部部長の高山(写真左)です。
社会性8割、自我2割。"大人男子"という新しい生活者像
高山: まずはCiiKがどんな会社なのかをお聞きしても良いでしょうか?
江原: 「大人男子」というお客様像に対して、コンテンツ、商品、リアルの場の3つを通じて価値を届けていくことが私たちの事業です。具体的には身だしなみブランド「RETOUCH」、メディア「大人男子ラボ」、美容室の事業を主軸に、大人男子が朝起きてから寝るまでの生活にかかわる部分を提供しています。先日、6周年を迎えまして、そのタイミングで「大人男子の小さな選択肢を編集し、人生の豊かさを創り出す。」というビジョンを掲げました。
大人男子ラボのInstagram(
@otona.danshi_labo
)
高山: 「大人男子」というお客様像が今まであるようでなかった捉え方ですよね。CiiKさんでは、「大人男子」をどのように定義しているのでしょうか?
江原: 私たちは「まわりとの調和を大切にしながら、自分の心地よさを諦めない大人」と定義しています。社会や周囲の意見には合わせられるけれど、自分らしさやこだわりも少し出したい。8割の社会性と2割の自我のバランスを大切にする男性を大人男子と呼んでいます。25歳から35歳を中心にしつつも、年齢よりも思想や価値観、ライフスタイルでセグメントしています。
高山: 8割の社会性と2割の自我って面白いですね。具体的にはどんな場面に表れるのでしょうか?
江原: 服装でいうと、基本的にはシワがないシャツやTシャツにスラックスなどがベースですが、そこにメガネやアクセサリー、リング、ネックレス、スニーカーや革靴など、自分のこだわりがあるものをちょっと組み合わせる。カラオケだったら、みんなで盛り上がれる曲でありながらも、自分も好きな曲を選ぶような。
「RETOUCH」のアパレルアイテムを考えるうえでも、「8対2になっているか」という議論はしています。今日、私が着ているセットアップは一見ベーシックなデザインに見えますが、洗えて速乾性がある機能性素材を使ったものです。サイズ感はややオーバーサイズでゆとりがあり、ジャケットのポケットをなくしシームレスなデザインにしています。セットアップの基本は押さえつつも、少しのアレンジを加えている。主張しすぎず、ファッショナブルにも見えすぎないバランスを取るところはこだわっていますね。
高山: スタッフの皆さんは「大人男子」に該当するような方々なんですか?
江原: そうですね。18人の社員(2026年7月現在)がいますが、全員男性です。「大人男子ってこういう感じだよね」とターゲットを捉えて、コンテンツを考えるというよりは、自分たちがどう思うかを軸に行動できていると思います。
レシピではなくストーリーを届ける。「それうま」急成長の理由
「大人男子ラボ」の一企画から生まれた料理アカウント「それでも、美味いもん。Instagram( @ sore_uma )」。コンセプトは〈疲れた夜、「今日に勝つメシ」で自分を救う〉。30代男性を主なターゲットとし、「等身大の自分がつくれる“うまい飯”」をテーマに、日常の食卓に寄り添うレシピやシーンを発信している。
高山:お客さん像をデモグラではなく、価値観で定義するところは、クラシコムともよく似ています。自分の心地よさを追求しつつも周りとの調和のバランスを模索したり、葛藤したりしているお客様像も近い気がしました。
クラシコム ブランドインテグレーションは2025年12月より「それうま」の専属エージェンシーとして企業のブランディング支援をご一緒させていただいています。すでにサントリーや味の素などの企業とのお取り組みが実現していますが、このアカウントはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか?
江原:私たちはこれまで身だしなみに軸足を置きつつも大人男子の生活シーンを想像しながら事業展開をしてきました。仕事が終わった後の大人男子はどんなふうに過ごしているのかとシーンを広げて想像するなかで生まれたのが「それうま」です。もともとは「大人男子ラボ」のメディアのひとつのコンテンツとして発信したのですが、非常に反響があったので、独立したアカウントを立ち上げました。
高山:料理アカウントだと料理が美味しく見えるような照明や画にこだわることが多いと思いますが、「それうま」は加藤さんが豪快に食べている映像も魅力的ですよね。コンテンツを作るうえで特に大切にしていることはなんですか?
江原:このアカウントは大人男子を体現する加藤の帰宅後の超リアルなシーンなんです。私たちとしては、単純にレシピを届けるというよりは、家でのストーリーを届けています。なぜその料理なのか、なぜそれを飲むのかというストーリーが重要なんです。
高山:なるほど。1年4ヶ月で44万フォロワーを獲得という急成長をしましたが、その理由は何だと思いますか?
江原:ひとつは先ほどお話ししたストーリー。もうひとつは、シュッとした綺麗な顔立ちの加藤が、仕事から帰ってきて疲れ切った状態で、キッチンカウンターで背徳飯をかき込むというギャップです。フライパンのまま食べる、計量カップのままお酒を飲むといった「心地いい裏切り」が刺さったのかなと。
高山:今、似たようなことをやっているアカウントも増えていて、画角やコンセプトをサンプリングしているところはいくつもありますが、これほどストーリーを出せているアカウントはたしかにないですね。企画はどんなふうに考えるんですか?
江原:ストーリー視点で料理を考えるパターンもあれば、料理からストーリーを考えることもあります。例えば、スパイスを使おうとなったときも、「そもそもスパイスとは何だ?」というところから考えて、スパイスを使うことで得られる感情や心の動きを大げさなくらい真剣に考えます。スパイスを活かすことでこんな生活や自分になれるんだ、という体験や感情まで提供したいんです。
高山:クラシコムもテイストやトンマナだけを見ると、似ているアカウントやサイトはあるんですが、本質の部分へどうアプローチするかはやっぱり違う。そういうものの見方やものづくりの姿勢は、「それうま」とクラシコムに共通する部分だと感じています。
「それうま」は、もうひとつのプラットフォーム
高山: 「それうま」とクラシコムは2025年12月から広告タイアップ領域での協業をスタートしましたが、実際にご一緒してみて、いかがですか?
江原: 私たちがクラシコムさんのことを参考にさせてもらっているというのも大きいのですが、共感できるところがすごく多いと思っています。
「もう少しこう見せた方がいい」といったブランド目線の意見をいただいたり、私たちが匙加減を知らずに少しやりすぎな表現を提案したときも、「『それうま』の良さが消えちゃうから、このぐらいでいいんじゃないか」というアドバイスをいただいたりと、自分たちの世界観をしっかりと持っているクラシコムさんだからこそ、私たちが大切にしている部分も理解していただきながら、伴走いただけているのはすごくありがたいです。
高山: 私たちブランドインテグレーショングループのサービスには、自社の「北欧、暮らしの道具店」を活用したプラットフォームドメインと、それに限らずパートナー企業さんと連携して幅広い領域で支援を行うブティックエージェンシーとしてのドメインがあります。今回、「それうま」とはエージェンシーとしてのパートナーシップというかたちではありますが、感覚としてはある共通した世界観のプラットフォームがあって、そこに「北欧、暮らしの道具店」もあれば「それうま」にあるという感覚に近いですね。それは両者の世界観や価値観にすごく親和性があるからで、違いはどういう人に届けるかだけ。なので、代理店としてのスタンスではなく、自社の「北欧、暮らしの道具店」というプラットフォームを提案するときと極めて近いロジックで取り組ませていただいています。
カウンターが新しい選択肢になる。サントリー「JJ」とのタイアップの手応え
せっかく有給を取ったのに、何もしないまま気づいたら夕方で、腹だけは減っている。でも、最高に満足できる料理を作ったら、有給を取り返せる。そのときに「JJ」をあわせたら…という、「帳尻JJ」というテーマで投稿を作成
高山: 最近はサントリーさんの「JJ」とのお取り組みが実現しました。数あるお声がけのなかで、なぜ「JJ」とご一緒することになったのでしょうか?
江原: 実は加藤はお酒が好きなのですが体質的に強くなく、「JJ」がちょうどよいということでリアルに愛飲していたんです。ビジネスだからやるというよりは、加藤自身も「それうま」チームも、本当に推せるものでご一緒できたのは嬉しかったですね。
高山: サントリーさんは「◯◯JJ」という言葉を流行らせたい意向があって、サムネイルでも大きく打ち出しています。パッと見からJJタイアップとわかる投稿でも通常投稿より再生が伸びたんですよね。
江原: 通常の投稿よりも閲覧数が伸びましたし、コメントも盛り上がりました。それは私たちとしてもすごく嬉しい反響でしたね。JJスポンサードで「それうま」のユーザーに集まってもらうリアルイベントとして「JJ夜会」を開きましたが、そこで参加者の皆さんのJJに対して愛が溢れていたのも印象的でした。
「JJ」はもともと女性に好まれるお酒のイメージがあったり、二軒目で飲むイメージがあるなかで、男性が家でグビグビ飲むシーンを訴求し、そういう文化を醸成することができれば、既存のイメージへのカウンターになるのではないかという思惑で取り組んだところ、実際に背徳飯との相棒にJJという文脈が作れたのは非常に大きな成果でした。
高山: 江原さんのおっしゃるカウンターは、冒頭でお話しいただいたビジョン「大人男子の小さな選択肢を編集する」の実践なんですね。
江原: まさにそうです。「JJ」を大人男子の新しい選択肢として提示できたのだと思います。投稿だけでなく、加藤と編集ディレクターが「JJ」を飲みながらユーザーの質問に答えるライブ配信も実施しまして、そこではライブ配信ならではのリアルタイムのコミュニケーションが熱や興味を生むんだと実感することができました。配信を見ながら一緒に「JJ」で乾杯してくださる方もいて、こういう体験はライブ配信だからこそできることだと実感しました。
高山: 味の素さんとは「限界飯プロジェクト」を立ち上げましたが、こちらも好評ですよね。
江原: 大変反響をいただいています。商品のプロモーションというより、「限界飯」というカテゴリー自体を盛り上げていき、そこに味の素さんの商品がフィットするという見せ方をしているのですが、それこそ「それうま」らしさがそのまま表れた企画になっています。こちらも「それうま」のユーザーに集まっていただく夜会を近く開催する予定です。
ブランディングとは、ズレの解消である
高山: 「JJ」や「限界飯」のようなタイアップの企画を考えるうえで、CiiKさんの他の事業の考え方や知見が生かされているのでしょうか?
江原: 私たちはどの事業においても真っ向勝負を避ける方法を取ることが多くて。社内ではそれを「ちょいずらし」と呼んでいます。もともとの事業である「RETOUCH」は身だしなみブランドと謳っていますが、男性用のコスメ、ヘア、アパレルのジャンル自体は以前からあったけれど、それを私たちが「身だしなみ」というふうに少しずらして定義したことで新しいジャンルに見えているわけですよね。そういうふうにプロダクトやコンテンツを作るときも世の中的なイメージのセンターピンはおさえつつも、そこに飛び込むのではなく、あえてずらすということは大切にしていますね。
高山: 面白いですね。ブランドインテグレーショングループとして、最近ブランディングという言葉を定義し直したんですよね。そこでブランディングとは「ズレを解消し続ける活動」なのではないかというところに至りました。
ズレもあります。そのズレを解消して、統合していくことがブランドにおいて重要なのではないか、それがブ ランディングなのではないかと定義したんです。 先ほど江原さんが「ちょいずらし」というお話をされていましたが、今回でいうと女性のお酒、二軒目のお酒のイメージがある「JJ」を少しずらすことで大人男子にあわせたということですよね。それでいうと僕らのやり方は、「JJ」と「北欧、暮らしの道具
さまざまな人と人が働く以上、いろいろなところでズレは起こり続けると思うんです。ブランドとしての思いが生活者に伝わっていないというずズレもあれば、社内で経営層の思いが組織に伝わっていないという店」のお客さんの間にあるズレを見つけて、それを解消することで新しい選択肢として提案する、ということをやっているわけです。
江原: そう考えると、私たちは顧客目線なのかもしれない。お客さんが「イメージと違うから」と感じているところに、「いや、いいんだよ」と伝えることで新しい市場を作っていくというか。クラシコムさんはそこをブランド目線で考えているから「ズレの解消」となるわけですね。
高山: 同じことを違う角度から見ていたということですね。このズレを考えるときに、「自分たちはこう思われたい」という実態のないものに対して、「ズレは何か」と考えてもおかしなことになるので、自分たちが何を大切にしているのか、何が自分たちらしさなのかを理解していることも大事だと思っています。
江原: 自分たちらしさが何かを理解しておくことが大事だというのは、「JJ」とのお取り組みでも実感しましたね。新しい提案をしなくてはという思いから、「それうま」らしさがないアイデアが出たときがあったんですよね。そのときは高山さんとお話して、自分たちの大切にしていることはなんだ?と立ち返ることができました。
高山: そうなんですよね。どうしても新しいエッセンスを入れようとしてしまうもので。ただ、企業の方からすると「その媒体らしさ」でやってほしいということもある。
同時にメディアを続けていく以上、「らしさ」を広げていくことも大事だと思っています。実際、「北欧、暮らしの道具店」も昔と比べると、企画の幅は広がっています。どうやって広げていったかというと、クライアントとのお取り組みではなく、自社のオリジナル企画でちょっとずつ、らしさを更新していったからです。
江原: すごく学びになりますね。私たちも自分たちでブランドを作っているので、商品の作り手が抱えている思いや届けたいものが明確にあるからこそ、外部の方にお願いするとそこにズレが生じやすいこともわかるんです。クラシコムさんは、ブランドとして届けたいことと「それうま」としての思いの双方をくみ取って、フィットするように調整してくださっている。だから「それうま」の良さを残したままコンテンツも伸びて、ブランドさんとの継続的なお取り組みにつながっているんだと思います。
高山: 改めて話してみても、なんだかCiiKさんとクラシコムはズレがあまりないですね。ブランドとのお取り組みでも、クライアントからのニーズに対して「それうま」が提供している価値との間にズレがないから、満足度の高い取り組みが実現できているんだとも思います。そういう媒体を理解していただけるクライアントと、深く関わっていくというやり方が「それうま」にも合っていそうですよね。
江原: 会社のスタンスとしてもいろんなブランドと広く浅く関わるというよりは、一度関わっていただいた方たちと、気持ちよくご一緒しながら関係を深めていくような取り組みをしていきたいと思っています。今後もどうぞよろしくお願いいたします。
高山: こちらこそどうぞよろしくお願いいたします!