1965年の発売以来、60年以上にわたって愛され続ける鎌田醤油の「だし醤油」。長年のご愛用者に支えられてきた一方で、次の世代にどう手渡していくかという課題を抱えていました。2026年5月に公開したタイアップ記事コンテンツ「BRAND NOTE」でご一緒したマーケティング部の椎山陽子さん(写真右)に、認知拡大と購入意向の変化を指標に、中長期の取り組みとして社内の合意をとった経緯や、自社では当たり前だった価値を外の視点で再発見したプロセス、公開後の反響について、お話を伺いました。
聞き手は、クラシコム ブランドインテグレーショングループのプロデューサーで今回の取り組み全体の企画立案者である越後(写真左)です。
言い慣れた言葉を、別の伝え方で届けたかった
越後:今日はよろしくお願いいたします。まず、どのような背景で当店との取り組みをご検討いただいたのか、お聞かせください。
椎山:弊社のだし醤油が誕生して60年が過ぎ、次の世代にどう届けるかが課題でした。特に、30〜40代の若い世代にアプローチしたいという思いがありました。
「北欧、暮らしの道具店」には、その世代の方も多く、暮らしや食への関心が高い読者のみなさんが集まっていますよね。だからこそ、だし醤油の価値にも共感いただけるのではないかと考え、ご一緒したいと思ったんです。
越後:数ある媒体のなかで、当店に可能性を感じていただいたのはどんなところだったのでしょうか?
椎山:これまでも、だし醤油の便利さや美味しさはお客さまにお伝えしてきました。でも、長く言い続けてきたぶん、どこか決まり文句のようになってしまっている感覚もあって……。御社の記事のように、暮らしに自然に溶け込む伝え方ができないだろうかと考えたんです。一般的な醤油調味料はペットボトルやビンが多く、ラベルも「醤油らしい」ものが多いですが、弊社は紙パックのすっきりとした見た目が特徴です。このデザインなら「北欧、暮らしの道具店」の世界観にも合うし、記事に登場する食卓やキッチンに、弊社のだし醤油が置かれている姿が想像できたんですよね。
越後:椎山さんは当店を10年以上ご覧になっていたそうですね。
椎山:毎日見ていました。今の会社に入ったのは7年半前で、それ以前は他業種の会社にいたので、御社のサイトを見ていても自分の仕事とつながるとは考えていませんでした。あくまで個人的な楽しみとして見ていました。
購入率ではなく、認知とLTVで評価すると決めた
越後:
今回の取り組みは、個人的に当店を楽しんでくださっていた椎山さんご自身から提案だったと伺いました。そのとき、社内での「北欧、暮らしの道具店」の認知状況はいかがでしたか?
椎山:
女性スタッフはある程度知っていたのですが、最初に相談した先が男性中心のチームだったので、ほぼ知られていませんでした。「『北欧、暮らしの道具店』とはこういうサイトで、当社と親和性があるからご一緒したいんです」ということを資料にまとめて社内に提案しました。
越後:
検討いただく段階で、CTRや購入率などの実績が知りたいというお話をいただきましたよね。あのとき、「もしCV数がKPIであれば、当店の強みが活きる取り組みにはならないかもしれません」とお伝えいたしました。それを聞いたとき、椎山さんはどう感じられましたか?
椎山:
正直に言うと、社内説得は難しいかもしれないと半ば諦めました(笑)。ところが、営業戦略室のメンバーに相談してみると、ほとんど反対意見が出なかったんです。目先の費用対効果ではなく、長い目で見てやっていくべきで、今の自分たちにはそれが必要なんだ、と。メンバー全員が中長期的な取り組みの必要性を感じていることが伝わってきました。「御社で大丈夫か」という声どころか、「ぜひやってみたい」と言われたくらいでした。
越後:
それは意外でした。どういうところに価値を感じてくださったのでしょうか?
椎山:
暮らしや食への関心が高いお客さまに直接届けられることと、記事を通じて得られるデータや結果が信頼できるという点が大きかったようです。今後の自分たちの施策の方向性を考えるうえでも参考になるんじゃないかという意見をもらいました。
越後:
御社はこれまであまり積極的に広告出稿はされてこなかったと伺っていますが、そのなかで「コンバージョン最優先の取り組みだけでは不十分だ」と感じられていたのはなぜだったんでしょうか?
椎山:
新規のお客さまに向けて、短期的な売上だけを追う施策では、だし醤油を選び続けていただく理由を伝えきれないと感じていたからです。もちろん最終的には費用対効果も考えなければいけませんので、売上の結果も見ていく必要があります。ただ、今回はあくまでも認知拡大と購入意向の変化をKPIに設定し、買っていただいた方のLTVを3年間追っていくということで社内理解を得ることができました。
自社では当たり前だった「甘くない」が、選ばれる理由に
越後:
一緒に記事を制作していく過程で、印象的だったことはありますか?
椎山:
制作に入る前に御社のチームからいろいろと質問をいただきました。そのなかに「なぜ、だし醤油は甘くないんですか?」という質問があったのが印象に残っています。
越後:
なぜ印象的だったのでしょうか?
椎山:
「甘くないこと」が価値だとは考えていなかったんです。御社のチームから「めんつゆのように一本で味が決まるものといえば、甘いものが多い。でも、だし醤油は甘くない。そこにこだわりがあるのでしょうか?」という質問をいただいて自分たちでは気づけなかった価値を認識することができました。
もちろんこれまで訴求してきた「これ一本で味が決まる」という点もそのとおりで、そういう使い方をしている方もたくさんいらっしゃいます。一方で、「自分の家の味に調整しやすい」という点もだし醤油のいいところなんだと気づかされて。今後の訴求の参考になると感じました。
越後:
これまで前に出して伝えてこなかったのは、お客さまもすでにご存じだと思っていたからですか? それとも訴求するような価値ではないと思っていたからでしょうか?
椎山:
甘さの有無が商品選びの基準になっているとは思っていなかったんです。実際、記事の感想を拝見して、「甘くないから買ってみたい」というコメントがあり、驚いたくらいです。
越後:ほかにも、制作の過程で気づかれたことはありましたか?
椎山:紹介する商品の選定時にも気づかされたことがありました。最初、私はだし醤油の他に二つの商品を提案させていただいたんです。もっと新鮮で魅力を感じられる商品があった方がいいだろうという思いが先行し、だし醤油そのものの魅力や背景を改めてお伝えするという発想がありませんでした。
でも、御社のチームから「まずは基本のだし醤油をきちんとお伝えして、丁寧にストーリーにしていくべきだ」というアドバイスをいただいたんですよね。61年前に、働くお母さんだった社員のアイデアから生まれたこと、だし醤油のパイオニアであること。そういう背景こそ、うちにしかない強みだと言っていただいて。
越後: 当店のスタッフにもだし醤油の愛用者が多かったので、まずは僕ら自身が使い続けている基本の一本を紹介したかったんです。
椎山:もともと御社にお任せするつもりでしたが、ご提案どおりにしてよかったなと思っています。
お客さまとのフラットな関係から生まれるコミュニケーション
越後:
実際にできあがった記事は、イメージどおりでしたか? それとも、想像とは違う新しい形でしたか?
椎山:
結論から言うと、期待以上でした。「BRAND NOTE」の記事はいろいろ拝見していたのですが、そのなかでもかなり直球な表現になっていますよね。調味料なのに材料や工程といったレシピがなく、写真と「野菜とだし醤油だけ」「目玉焼きにだし醤油」といったテキストのみです。それでいいんだ、と肩の力が抜けた感覚がありました。
【スタッフの愛用品】あり合わせの野菜炒めも、ちゃんとおいしい。10年以上リピートする「だし醤油」
越後:
もっと作り込んだものを想定されていたということでしょうか?
椎山:
最初は、「こんなにシンプルでお客さまに届くのだろうか?」と思いました。だし醤油は、ある程度使い方が知られているから、みなさんが知らないレシピや「こんなふうにも使える」というアレンジが必要なのかなと思っていたので。
一方で、一読者として見ると、その潔さに好感が持てたんです。削ぎ落としているからこそ、だし醤油の良さが引き立つ表現になっていましたよね。「こんなに便利ですよ」と売り手が伝えるのではなく、だし醤油があったら暮らしがこんなふうになる、というところを自然体で表現していただいた。
越後:
当店では、「お客さまとフラットな関係性を築く」という点を大切にしています。売り手と買い手の上下関係のあるコミュニケーションではなく、互いが横に並んで、「こういう暮らしがいいよね」と同じものを見るということです。それがベースにあるからこのような表現になっています。
椎山:
まさにそこなんです。暮らしに溶け込み、お客さまに共感していただける伝え方について考え直すきっかけをいただいたと思っています。
アンケートの意外な結果から見えた、だし醤油の可能性
越後:
記事末尾で実施したアンケートでは、想定を大きく上回る回答が集まりました。そのうちの半数以上がコメントも書いてくださっていたのが印象的でした。回答を読まれた感想はいかがですか?
椎山:
長文で丁寧に書いてくださっている方もいて、驚きました。読んでいると、「自分が使っている商品が、『北欧、暮らしの道具店』に紹介されてうれしい」、「『北欧、暮らしの道具店』が紹介しているから安心できる」という気持ちが伝わってきました。自社のECサイトでもアンケートを行っていますが、あそこまで熱量のある内容はなかなかありません。やはり御社とお客さまの関係性、信頼感があってこそだと実感しました。
あとは、「最近使っていなかったけれど、これをきっかけにまた使いたい」といったコメントは、特にしみじみとうれしく感じました。最初は30〜40代の新規ユーザーへの認知拡大が目的でしたが、結果を拝見するとそこだけではない方々に届いた手応えがありましたね。
越後:
アンケートを見てみると、「だし醤油を知らない」と答えた未認知層は50〜60代が多かったんですよね。
椎山:
長く続いてきたブランドなので、お客さまは50〜60代以上が中心で、その世代にはもう知られているものだと思っていました。だから、若い世代に届けなくてはいけないとばかり考えていたのですが、実は50〜60代にも知らない方や離れていた方がいた。自分たちが思い描いていたお客さま像と、実際とのあいだにズレがあったことを認識しました。上の世代の方に意外と認知されていないという結果が出たことで、だし醤油というカテゴリー自体に、まだまだ可能性があることもわかりました。広告など認知拡大の取り組みをするにあたって、まずはだし醤油を基本にしっかりやっていかないといけないと再認識しました。
越後:今回、「BRAND NOTE」の記事のなかで「『北欧、暮らしの道具店』のお客さま限定の特別セット」を作っていただきましたよね。そちらの反応はいかがでしたか?
椎山:はじめての方も多く購入してくださり、なかにはすでにリピートしてくださった方もいらっしゃいます。これからLTVを追いかけていくなかで、御社経由で知ってくださったお客さまのリピート率が他と比べてどうなるのかを楽しみにしています。
限定セットは通販限定ですが、だし醤油は小売店でも販売しているので、そちらで購入したお客さまは数値で測ることができません。「今から買いに行きます」というコメントもあったので、そうした方々は、お近くのスーパーで購入されているのだと思います。
ですから、限定セットの売上だけを見るのではなく、スーパーなど小売店経由の販売(BtoBtoC)も合わせて判断しなくてはならないと捉えています。
「古いけれど、新しい」の姿勢をこれからも
越後:今後、ブランドとして挑戦していきたいことがあれば教えてください。
椎山:会社自体は230年以上、だし醤油は60年以上続いています。ブランドコンセプトに「古いけれど、新しい」を掲げているのですが、昔ながらの和食の文化を大切にしながら、現代の食生活に合わせて進化し続ける。それが、創業以来大切にしてきた姿勢です。
だし醤油がこれから先も愛されるように、お客さまとの接点を広げ、受け継がれるブランドに育てていきたいですね。
*部署・役職は2026年10月時点のものになります。